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山下達郎 (1983年)
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| ムーン・レコード移籍第一弾の本作は達郎30歳にしてソロ通算10作目と節目の作品になった「メロディーズ」を紹介します。レーベル移動により、音楽活動の制約を振り払う事に成功した彼が、その時点で持てる力を全て注ぎ込んだ傑作であり、1980年代の名盤の一枚です。 前作2枚(「Ride On Time」「For You」)の成功は彼が望むと望まざるとにかかわらず、彼にひとつのイメージを作り上げました。「夏だ!海だ!達郎だ!」というのが当時のキャッチフレーズです。ここ10年くらいの彼のイメージとは程遠いですが。しかし、このアルバムでは敢えて今までのイメージを払拭するかの如く、新しい試みに挑戦しているように思えます。具体的にいうと、各曲のタイプ・スタイルの多様性が増しいるところです。すべての楽器を彼がプレイする「悲しみのJODY」、多重録音による一人コーラスが展開される「高気圧ガール」、カヴァー曲「ゲス・アイム・ダム」でうかがえる「伝統」の「正当な継承者」としての主張、「メリー・ゴー・ラウンド」に至っては、シンプルなバンド編成でありながら壮大なスケール感を持つ達郎流ファンクミュージックの集大成といった感があります。また、ゴスペル色の強い「BLUE MIDNIGHT」や、お得意のリズムパターンが刻まれる、「あしおと」等、決して流行に流されない意志が顕れています。アルバムの最後に収められている、彼の最大のヒット曲「クリスマス・イブ」は、その後6年をかけてチャートの1位を獲得し、パブリック・イメージをも大きく変えることになりました。伝統と現代を結合させ、リスナーの意表を突いたアレンジなども聞きどころです。 洋楽のコピーから出発した日本のポピュラー音楽が、その伝統を継承しつつも、時代性をも反映させた、より普遍的な作品を構成していく過程をそこに見る事が出来ます。これら音楽スタイルは彼の初期の頃の作品から試行され、練り上げられ、このアルバムによって集大成されたといえるのではないでしょうか。本格的なマニュアル・レコーディングとしても最後の作品となり、これ以降長いデジタル・レコーディングとの格闘が始まります。 ミュージシャンにとって「レーベルを移動する」ということが、どういう意味を持つのか我々には想像もつきませんが、少なくとも達郎氏はそういうことを考える機会を与えれくれました。当然、自分の音楽的表現への制約を取り払う事や、作詞作曲編曲歌唱の諸活動に対する経済的対価という問題もあるでしょうが、要はミュージシャンとしての良い意味での「わがまま」が、どれほど通り良くなるのかという問題になってくるように思えます。また、これまでの作品では吉田美奈子が詞の大半を書いていましたが、この作品から全面的に達郎氏本人が作詞を手がけるようになっています。30歳を迎えて自分の言葉で男のロマンティシズムを表現したかった、と表明している通り、自らの体験も踏まえた私小説的で耽美な詞の世界が展開されています。まさに、80〜90年代におけるシンガー・ソングライター的アプローチの出発点となっているようです。また、自ら作詞を手がけたことによって、アルバム全体の印象がより内省的になり、特に「悲しみのJODY」でファルセットとともに展開される叶えられない恋愛や 「メリー・ゴー・ラウンド」でのペシミズムにあふれた疎外感などはこのアルバムのひとつのテーマとなっているでしょう。 これ以降の彼の作品ではこうしたロマンティシズムと、ある種のイリュージョンを内包した、より深い味わいの作品が増えていきます。個人的な意見を述べさせて頂くと、この作品がこれまでの彼のキャリアの中で最高傑作だと言って、過言ではないと思います。デジタル録音に移行する前の達郎サウンドの集大成的なアルバムで、これは一つの完成型だと捉えることができます。日本のポップスシーンを代表する名盤であり、必聴です。 |
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