ゼアズ・ノー・プレイス
 ・ライク・アメリカ・トゥデイ


カーティス・メイフィールド
(★)

“今日のアメリカのような場所はどこにもない”―良くも悪くも取れる言葉だが、このアルバムでは思いっきりネガティブにこの言葉を捉えている。ジャケットを見れば、車に乗った幸せそうな白人家族を使った看板の前で列をなす黒人たちがある。食糧の配給を待っているようである。皮肉な取り合わせ。このアルバムのタイトル、ジャケットで見せるラディカルさは新鮮です。
もちろん中身の方も負けてはなく、唯一「So In Love」が心温まるラブソングだが、社会状況の厳しさ、日常生活の困難さなどを、直接的、あるいは間接的に歌ったものばかり。「Billy Jack」では、音数も少なく、思わず息を飲むような1分近いイントロの後に歌われるのは、ストリートギャングだった友人ビリー・ジャックが撃ち殺されてしまった。という物語。この中にあるのは、説教ではなく、どうしてこんな事に・・・、という単純な悲しみであり、普通に生きていく事の困難さを示している。後半は特にどれも不況や失業、貧困といった事をテーマに、愛の問題も絡めていろいろな角度から歌っているが、愛があれば大丈夫とノー天気に歌うのではなく、どこかシヴィアな、醒めた視線、現実を厳しく見つめる姿勢を感じる。「Jesus」では、文字どうり、そうした生活の苦しみからの解放を神に祈るのだが自分の前に広がる世界は自分のことを奴隷に使用としてるのだ、と過激な事を何気なく歌っている。“君にはなにもしてやれない・・・自由になる方法は君しか知らない。”と自立を促すあたり、彼らしい。解決を神の手に委ねるばかりのマーヴィン・ゲイの「Wht's Going On」とは、受ける印象がかなり違う。「Blue Monday People」でも社会のシステムとの対立といった問題がちらりと出てくるし、「Hard Times」では、うまく社会に馴染めない辛さ、愛のないクレイジー・タウンで生きる厳しさといったところに主眼が置かれている。
こうした歌の内容を更に際立たせているのが、バックのサウンドであるのは言うまでもない。ストリングスは控えめにした隙間のあるサウンドで、ワウワウ等のエフェクターのかかった複数のギターの絡み合いがすごい特色となっている。フレーズなどをキッチリ決めずに絡み合っていく様が凄い。それもバリバリ弾きまくるんではなく、音数はあくまで少なく、すすり泣くようなフレーズが交錯し合う、混沌としたクールさ、という趣である。リズムセクションも表に出てバチバチ決めるのではなく、実にルーズだ。それだけに時折りフワッと出てくるホーンセクションも効果的。イントロも長いものが多く、それだけに緊張もしてしまうが、歌が始まっても、バックの隙間ある音が逆に全体を引き締め、彼のファルセットヴォイスが、異常な緊迫感を持って聞き手に迫ってくる、といった仕掛け。
これだけ息詰るアルバムに私はそう出会った事はない。セールス的には成功していないし、私はリアルタイムで聞いたわけじゃないけども、内容は、私の人生に大きく影響を与える充実した1枚である事は間違いない。
私は基本的にロックンロールファンであり、ここにあるのはロックが言っている意味での攻撃的なものではなく、内省的な意味で攻撃的である。煮詰まったりした時にこれを聴くのだが、そうすると一種宗教的荘厳さでもって諭してくれるというか、慰めてくれるというか、そういった柔らかさで自分を包み込んでくれる。音楽なんて力が弱いものです。風邪で寝込んだ時とか、盲腸とか、足切った時とかに音楽なんか聴けない。だけどそれに近い状態にある時に不思議と通用する音楽というのもある。なんだかんだいっても商業音楽というのは、どこか一抹、売上げのために作っているいやらしさっていうのがあるし、聞いていてもそれが一種のプッシュとなって現れてくる。商業音楽のなかにはホントの意味でのクワイエットな音楽はないのかもしれない。適度にリラックスさせてくれる程度のものはたくさんあるけど、ホントに精神的にも肉体的にも落ち込んで、何物も受けつけられない状態になったときに聞ける音楽って数えるほどしかない。
このアルバムは僕にとって数少ないそういうアルバムです。
(にゃまうち)
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